調査概要2024年夏以降、米の価格が大きく上昇し、家計への影響が懸念されています。メディアでは「米離れ」や「代替商品への移行」といった報道も見られますが、実際の消費者の購買行動はどうなっているのでしょうか。本調査では、ONEが保有するレシートデータを用いて、米価格高騰期における消費者の購買行動の変化を分析しました。具体的には、主要銘柄米の価格推移とレシート出現率の関係、代替商品への移行の有無、備蓄米の市場への影響などを、2024年7月から2025年9月までの15ヶ月間にわたって追跡しています。調査結果米の価格はどれくらい上昇したのか?まず、実際のレシートデータから、米の価格がどの程度上昇したのかを見ていきましょう。[図1:主要銘柄米の価格推移(中央値・5kg)]※小売企業や店舗によってレシート表記(商品名、価格の内税、外税など)が異なるため、本記事での数値はあくまでも参考値としてご確認ください。代表的な銘柄である「コシヒカリ」の価格(5kg・中央値)は、2024年7月の2,190円から2025年9月には4,199円へと、わずか14ヶ月で約1.9倍に上昇していました。「あきたこまち」も2,348円から4,180円へ、「ゆめぴりか」は2,099円から4,280円へと、主要国産米は2倍近い価格上昇となっています。一方、輸入米の「カルローズ」は1,640円から3,229円へと上昇したものの、国産米ほどの値上がり幅ではありませんでした。さらに、2025年3月から市場に登場した「備蓄米」は、2025年3月〜5月は3,580円〜3,590円で推移し、同年6月以降1,960~1,980円で推移しています。この点に関して、春先は備蓄米の市場への出回りが限定的であったのに対し、同年5月に政府の対応の変化と備蓄米放出方法の転換があり、初期は高値、夏以降は価格が急速に落ち着いたとみられます(根本涼(2025).「「令和のコメ騒動」原因はどこに? 需給見通しに誤算、尾を引く」.日本経済新聞.https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA246DM0U5A920C2000000/)。消費者は高価格帯の米を避けるようになったのか?価格が大幅に上昇する中、消費者の購買行動にはどのような変化が見られたのでしょうか。レシート1万枚あたりの各銘柄の出現数を追跡した結果が以下になります。[図2:主要銘柄米のレシート出現率推移(1万枚あたり・5kg)]銘柄(5kg)2024年7月レシート1万枚あたり出現数2025年2月レシート1万枚あたり出現数2025年9月レシート1万枚あたり出現数増減率備蓄米--1.99新規参入あきたこまち0.982.160.80▼18%コシヒカリ0.961.200.77▼20%ゆめぴりか0.250.580.13▼48%カルローズ(輸入米)0.0230.0680.18+683%この結果から、高価格帯の「コシヒカリ」は2024年8月にピーク(1.38)を記録した後、2025年9月には0.77へと約半減していました。最も高価格な「ゆめぴりか」に至っては、2025年2月のピークから48%も減少しています。一方、比較的価格の安い「あきたこまち」は、2024年7月の0.98から2025年2月には2.16へと約2.2倍に増加。価格上昇に伴い、高価格帯から低価格帯へのシフトが見られました。備蓄米はどれくらい受け入れられたのか?投入当初は出現率0.020と控えめなスタートでしたが、6月には2.41、7月には4.23へと急上昇し、わずか数ヶ月で米全体の中でよく購入される銘柄となりました。代替商品への移行は起きたのか?[図3:代替商品の価格推移(中央値)]代替商品の価格推移を見ると、米ほどの急激な変化は見られませんでした。サトウのごはんは478円から618円へと約30%上昇、トップバリュ ベストプライス(以下、TVBP)国内産切り餅は598円から678円へと約13%上昇した程度で、TVBPそば(228円)、TVBPさぬきうどん(298円)、マ・マー早ゆで結束(337円前後)の価格はほぼ安定していました。[図4:代替商品のレシート出現率推移(1万枚あたり)]レシート出現率を見ると、以下のような結果になっていました。商品カテゴリ2024年7月レシート1万枚あたり出現数2025年9月レシート1万枚あたり出現数変化サトウのごはん1.020.94▼8%TVBPそば(乾麺)0.580.50▼14%TVBPさぬきうどん(ゆで麺)0.460.48+4%マ・マー早ゆで結束(乾麺)0.160.18+11%包装米飯(サトウのごはん)の出現率は1前後でほぼ横ばい、むしろやや減少傾向にありました。乾麺類も大きな変動は見られず、パスタは若干増加したものの、米価格の高騰と明確な相関は認められませんでした。※蕎麦は2025年6〜7月に一時的に出現率が増加していますが、これは夏季の季節要因と考えられます。餅についても年末年始の季節変動が大きく、米価格との関連性は低いと考えられます。この結果から、米価格が2倍近くに高騰しても、消費者の多くは「米から離れる」のではなく、「より安価な銘柄へシフトする」という傾向がみられました。まとめ今回の分析により、以下のような結果が得られました。主要国産米の価格は14ヶ月で約1.9倍に上昇し、家計に大きな影響を与えていた高価格帯の銘柄米(コシヒカリ、ゆめぴりか)のレシート出現率は20〜48%減少していた比較的安価な銘柄(あきたこまち)は一時的に2.2倍に増加するなど、価格シフトが見られた2025年3月に投入された備蓄米は、わずか4ヶ月で最も購入される銘柄となり、市場に急速に浸透したパスタや乾麺、包装米飯などの代替商品への大規模な移行は見られず、消費者は「米の中での選択」を行っていたレシートデータによって、価格変動と購買行動の関係をリアルタイムかつ定量的に把握することができたいかがだったでしょうか。ONEが収集しているレシートデータでは、 今回の分析のように、価格変動と購買行動の関係を詳細に分析することができます。商品カテゴリを超えた買い周り分析や、デモグラフィック別の購買傾向の違い、 競合商品とのシェア推移など、様々な角度からの分析も可能です。 今回実施した分析を年代別や地域別に切り分けて行うこともできます。何か気になる分析テーマがあれば、ぜひお問い合わせフォームよりお問い合わせください。使用データの詳細分析期間:2024年7月〜2025年9月対象商品:米(5kg):あきたこまち、コシヒカリ、はえぬき、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、ゆめぴりか、カルローズ(輸入米)、ブレンド米、備蓄米包装米飯:サトウのごはん 各種 商品詳細パスタ:ママー 早ゆで結束 各種 商品詳細そば(乾麺):トップバリュ ベストプライス 香りとのどごしそば 商品詳細うどん(ゆで麺):トップバリュ ベストプライス さぬきうどん(包丁切り製法)商品詳細餅:トップバリュ 国内産水稲もち米100%使用切り餅 商品詳細※トップバリュ ベストプライス:TVBPと記載。データソース:ONEアプリの「なんでもレシート」機能で収集されたデータを使用。レシート買取ミッション(販促キャンペーン)のデータは対象外とし、自然な購買行動のみを分析対象としています。集計方法購入店舗:指定なし(全国のスーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストアなど)価格:レシートのOCR結果から当該商品の数量、金額を取得し、1アイテムあたりの単価を算出。各月の中央値を使用。レシート出現率:ONE内のレシート1万枚あたりの出現数 {対象商品の各月のレシート数} / {同時期のONE全体のレシート数} × 10,000※小売企業や店舗によってレシート表記(商品名、価格の内税、外税など)が異なるため、本記事での数値はあくまでも参考値としてご確認ください。分析上の留意点本調査結果は以下の点にご留意ください。サンプル特性:本分析はONEアプリユーザーのレシートデータに基づくため、日本全体の消費行動を必ずしも代表するものではありません。地域差:全国のデータを集計していますが、地域による価格差や購買傾向の違いは本分析では詳細に検証していません。特に、都市部と地方では購買行動が異なる可能性があります。季節変動:米や代替商品の購買には季節性があり、特に餅(年末年始)や蕎麦(夏季)については、価格要因以外の季節的要因が大きく影響している可能性があります。商品認識の精度:レシートのOCR認識精度には限界があり、特に商品名の表記揺れや略称などにより、一部の商品が正確に集計されていない可能性があります。